日本大学文理学部 歴史教育シンポジウム
歴史教育における「私たち」
―歴史教育の未来を拓くⅧ―
2024年3月16日[土]13:30~17:30
日本大学文理学部 3号館3405教室・ハイフレックス開催
申し込みはこちら
- * どなたでも参加できます。
- *3月2日(土)までに左記のボタンよりお申し込み下さい。会場参加は先着150名までとさせていただきます。
プログラム
総合司会・趣旨説明:小浜 正子(日本大学文理学部)
1. 歴史総合の実践と評価
矢景 裕子(神戸大学付属中等教育学校)「「私たち」を学ぶ、「私たち」が学ぶ」
コメント:藤波 潔(沖縄国際大学)
2. ジェンダーから「私たち」を問う
長 志珠絵(神戸大学)「気づきとしての「歴史」の学び」
コメント:吉嶺 茂樹(札幌日大高校)
3. 私の授業理論―探究科目の探究
山田 道行(京華中学高校)「「なぜ」と問い続けられる「私たち」を育てる ーキリスト教、パレスチナ問題の授業を通して」
髙野 晃多(佼成学園女子中学高校) 「原爆投下と「ワタシタチ」―東南アジアから問い直す「被害」と「加害」の重層性」
コメント:藤野 敦(文部科学省初等中等教育局)
4. 総合討論
司会:吉嶺 茂樹
挨拶:磯谷 正行(高大連携歴史教育研究会)
古川
隆久(日本大学史学会)
★終了後、近くで懇親会を行います。
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- *3月2日(土)までに左記のボタンよりお申し込み下さい。会場参加は先着150名までとさせていただきます。
報告要旨
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登壇者プロフィール
開催趣旨(小浜 正子)
・小浜 正子(こはま まさこ、日本大学文理学部)
日本大学文理学部教授。専門は中国近現代史、東アジアジェンダー史。
〈主要著作〉
・『「ひと」から問うジェンダーの世界史(全三巻)』(第一巻:「ひと」とはだれか?、第二巻:社会はどうつくられるか?、第三巻:「世界」をどう問うか?)(共編著)大阪大学出版会、2024年。
・『歴史を読み替える-ジェンダーから見た世界史』(共編著)大月書店、2014年。
・「高校歴史教育改革とジェンダー主流化」『ジェンダー史学』第14号(特集:ジェンダー史が拓く歴史教育-ジェンダー視点は歴史的思考力をどう鍛えるか?)、2018年。
・『一人っ子政策と中国社会』京都大学学術出版会、2020年。
・『東アジアの家族とセクシュアリティ―規範と逸脱』(共編著)京都大学学術出版会、2022年。
・『東アジアは「儒教社会」か?-アジア家族の変容』(共編著)京都大学学術出版会、2022年。
報告1(矢景 裕子、コメント:藤波 潔)
・矢景 裕子(やかげ ゆうこ、神戸大学付属中等教育学校)
【報告趣旨】
神戸大学附属中等教育学校では、歴史の考え方や歴史的概念の修得に重点を置く「主題別単元史学習」のカリキュラム開発を行ってきた。発表者は、その成果を踏まえ、歴史を学ぶ主体としての「私たち」とはだれか、その自明性を絶えず問い続ける授業実践に努めている。
歴史総合を「私たち」に着目して学ぶ意義は2つある。ひとつは、近現代に国民としての歴史総合を「私たち」に着目して学ぶ意義は2つある。ひとつは、近現代に国民としての共同体意識やアイデンティティが形作られていく過程を理解することで、「私たち」の自明性を批判的に考察できるようになることである。もうひとつは、歴史を「私たちが、私たち自身を学ぶ科目」であると意識できるようになることである。今回の発表では、「大衆」の性質を分析する取り組みを通して、現在自分が属している「私たち」や、そこに生きる個人としての「私」との共通性やつながり意識し、自分ごととして歴史に向き合う授業実践を報告する。
【プロフィール】
三重県出身、大阪大学文学研究科修士課程修了。兵庫県の公立高校に8年間勤務したのち、2019年から現職。ついこのあいだ世界史探究の授業が環大西洋革命に入り、歴史総合とは異なるストーリーの描き方に悩んでいる。趣味はボードゲームと海外旅行。授業で使える歴史ゲーム開発を一緒にやってくれる同志を募集中。
・藤波 潔(ふじなみ きよし、沖縄国際大学)
【プロフィール】
1969年、北海道釧路市生まれ。日本大学大学院文学研究科博士後期課程満期退学。日本大学鶴ヶ丘高等学校講師(非常勤)、日本大学文理学部助手を経て、沖縄国際大学総合文化学部講師。2020年より同学部教授、2023年より大学院地域文化研究科長を併任。専門はイギリス近代外交史、歴史教育、歴史資料論。勤務校において教職課程の外国史および教科教育法を担当。
報告2(長 志珠絵、コメント:吉嶺 茂樹)
・長 志珠絵(おさ しずえ、神戸大学)
【報告の要旨】
「歴史教育の現場でジェンダー概念やジェンダー史はどれほど意識され、実践されているでしょうか」―『歴史評論』2024年
3月号、<特集/ジェンダー主流化と歴史教育>の冒頭「特集にあたって」の一文である。これを受けての特集号は、では「歴史教育」においてなぜジェンダー概念や視点が必要なのか?(教壇に立つ側として必ずしもその必要性を感じない)、他方、ではどのような組み込み方が可能なのか?(全員がジェンダー史を展開するわけではなかろう)という問いかけとそれらへの回答が、具体的な歴史教育の実践の場での知見を通じて用意される必要があるだろう。報告者は同特集号で「大学における「歴史」教育を学ぶ学習者とは誰か?それらの学習者の学びにとって、「ジェンダー概念やジェンダー史」の知見や蓄積はどのように“usable”であるのか、検討してみたい。
【プロフィール】
神戶大学大学院国際文化学研究科 教授
大阪府出身、立命館大学博士後期課程単位取得退学。博士(論文/文学)。立命館大学法学部常勤講師(全学留学生担当任期雇用)、神戶市外国語大学助教授(准教授)を経て
2010 年から現職
単著『近代日本の国語ナショナリズム』、『占領期・占領空間と戦争の記憶』、共編著『歴史を読み替えるージェンダーから見た日本史』、『論点ジェンダー史学』、『「世界」をどう問うか(<ひと>から問うジェンダーの世界史第3巻)』近刊
・吉嶺 茂樹(よしみね しげき、札幌日大高校)
【プロフィール】
1962年生まれ。熊本大学文学研究科(西洋史学専攻)修了。北海道内公立高校8校に勤務ののち、今年度より札幌日本大学高等学校(国際バカロレアコース)所属。専門は、歴史教育・幕末期の対外関係史。
著書に『今まなぶアイヌ民族の歴史』(共著・山川出版社),World
History Teaching in Asia: A Comparative Survey,Berkshire,2019.
歴史総合教科書の編集協力者も務めている。
報告3(山田 道行・髙野 晃多、コメント:藤野 敦)
・山田 道行(やまだ みちゆき、京華中学高校)
【報告趣旨】
ジェレド・ダイヤモンドはかの『銃・鉄・病原菌』(草思社文庫、2012年)の冒頭で、ニューギニア人の素朴な「問い」から壮大な研究をスタートさせた。それはすなわち、「あなたたち白人は多くの物をもっている。わたしたち(ニューギニア人)には無い。それは何故なのか」という世界の不平等に対する簡潔かつ根源的な問いであった。新しい教育課程において「問い」を立てる力が注目されている。歴史教育を通して、どれだけ「根源的な-私たちのあり方、生き方を見つめ直すような-問い」を生徒たちとともに生み出すことができるであろうか。本報告は、「世界史探究」の大項目Bを「宗教(特にキリスト教)」という観点から構成した授業実践である。加えて、昨年10月に始まったイスラエルによるガザ侵攻を授業化する試みを通して、時代や地域が異なる「他者の痛み」に対して、私たちがどう向き合えるか、私たちに何ができるのか、という課題を(これからの進路に悩む)高校3年生たちと考えた記録である。
【プロフィール】
東京都出身。東京都立大学人文学研究科修士課程修了(西洋史)、大正大学博士課程修了(臨床心理学)。これまでに歴史学と心理学という異なる分野を研究してきたが、両者を統合した教育実践を模索中。過去・現在・未来という「時間的連続性」の感覚が安定することが、子どもの成長発達において重要だと考えられる視点と、今日の歴史教育が目指す公民的資質の育成が、授業や学校生活を通して統合されていくことに意味があると考えている。歴史教育は受験勉強のためではなく、私たちの「未来を拓く」ために必要な科目です!と声高らかに叫びたいが、校務多忙により前に進めないジレンマと格闘中・・・。
・髙野 晃多(たかの こうた、佼成学園女子中学高校)
【報告趣旨】
本報告は、「私」が今までの自分の経験と改めて向き合い、自らの授業理論がどのように形成されてきたのか、そして、その理論をどのようにアジア太平洋戦争に関する実践に落とし込んだのかに関するものである。
今回はその中でも、原爆投下という出来事に対する日本と諸外国の認識の差異に注目することで、そして戦時中に日本軍が建設させた泰緬鉄道に着目することで、一つの都市や一人の人間のなかで「被害」と「加害」が折り重なった「戦場の実相」を浮かび上がらせようとした歴史総合の授業実践について報告する。
そして、近現代史の学習のなかで、歴史を引き受ける主体として「わたしたち」という言葉を使うに当たり、「では『わたしたち』とは何者なのか?どこまでが『わたしたち』に含まれるのか?死んでいった人たちは『わたしたち』に含まれないのか?」といった問いを、探究科目との接続を視野に皆さんとともに考えていきたいです。
【プロフィール】
東京都出身。明治大学大学院文学研究科史学専攻日本史学専修博士前期課程修了。文教大学付属中学高等学校・攻玉社中学高等学校で非常勤講師を勤めたのち、2019年度より現職。
趣味はトランペット演奏・クラシック音楽鑑賞・野球観戦・旅行。社会科に関するフィールドワークを一緒に開催してくれる先生を募集中です。
・藤野 敦(ふじの あつし、文部科学省初等中等教育局)
【プロフィール】
中学校・高等学校教諭、大学講師などを経て、2014年より国立教育政策研究所教育課程調査官、その後、文部科学省初等中等教育局教科調査官、視学官を併任。学習指導要領改訂では中学校社会科(主に歴史的分野)、高等学校地理歴史科(主に「歴史総合」、「日本史探究」)を担当。
〈著書等〉
・『東京都の歴史』(共著)山川出版社、県史シリーズ13,1997(2021重版)
・『史料でたどる日本史事典』(共著)東京堂出版、2012
・『近代日本の形成と地域社会』(共著)岩田書店、2006
・『東京都の誕生』(単著)(歴史文化ライブラリー135,吉川弘文館、2002)
・『日本の歴史を原点から探る―地域資料との出会い―』(共著)(地方史研究協議会編 文学通信 2020年)
・『高等学校地理歴史科公民科必履修科目ガイド』(共著),学事出版、2022など。
・月刊社会科教育(明治図書)連載中、NHKテレ「レキデリ」協力など。
主催
科研基盤B「東アジア各国の『姓・生・性』の変容の比較史的研究」
(研究代表者:日本大学文理学部・小浜 正子)
共催
日本大学史学会・高大連携歴史教育研究会